Karrasberge Project live forever with habitat

Sight of Karrasberge

少し前、MSGを通してメールボックスにTerryさんのこんなメッセージが送られて来た。


Karrasbergeを保護するプロジェクト支援      by Terry Smale

 私がSteve Hammerと妻のJenniferと連れ立ってSmorgenskadu, Kangnasを初めて訪れてから、今日30年の月日が経った。北ケープのSpringbokから東に30kmほどの場所にこれらの場所はある。これらの土地は長いこと、家族親類で経営維持されていて、家畜(羊)の過放牧による植生の破壊の危険性を考慮しながら農場が維持されている。その当時、かれらは、とても温かく農場内への訪問を歓迎してくれたし、敷地内のユニークな植生をとてもよく理解していた。Kangnasの領主であるPopsy Van Niekerk氏は、愛情を持って”Jelly babies”を見せてくれた。ほんの敷地小屋から離れたところに生えているConohytum mauhganiiだ。帰り際にはイチジクのジャムと房なりのぶどうを手一杯お土産に、そしてなによりも、すばらしいたくさんの写真を撮りためて帰路につくことができた思い出は忘れられない。

 これらの農場がある南ア西部Bushmanlandは、広大な砂質平原であり、そこに多くの石英丘が存在し、inserberge(陸島)と呼ばれている。砂質に対して硬質な石英層は、周りの砂質層よりも侵食に強く、自然と石英土壌のある部分はパッチ状に侵食を避けて隆起し、丘状の土地が形成されることになる。こういった石英丘の一つ一つが、多くの多肉植物の素晴らしき宝庫なのである。彼らの農場は冬降雨のSucculent Karooから夏降雨の Nama Karooにまたがる地域であり、こういった土地的な特異性から、固有の生態、種分化が見られ、植物相として非常に興味深い様相を呈している。例えばConophytum smorenskaduenseC. vanheerdeiの2種は、この狭いエリアにしか分布しておらず、他では見ることができない。

この世界的に貴重な植物たちを守るために、Karas, Arebそして、Pofadderの主要道路沿いは、“Karrasberge Project Area”として保護区域指定されることが法的に決まった。この保護活動によってBushmanlandの他の地域で起きているような、過放牧や盗掘による種の破壊から守ることが期待されている。  

 これらの地域では、家畜用の羊は、平地部で放牧されているが、保護区域である石英丘へ迷いだしてしまうのを避けたり、野生の毒草を食べてしまうのを避けるために、囲柵が設置されている。これによって、羊たちは石英丘にはアクセスできないようになっている。しかし、問題なのはふもとにある石英パッチには羊がアクセスできる状態にある、ということだ。石英丘のふもとには、崩れた石英のパッチが広がっており、丘頂部と同様に独特かつ重要な植生を反映している。そこで、石英丘だけでなく、ふもとの石英パッチを含む全体を、まるごと囲むように柵を設置しようという計画が持ち上がっている。また丘上に設置されている古くなった柵は撤去し、自然動物の往来はむしろ促すようにする。
 産地破壊のもう一つの大きな要因が、ヒトである。希少な種を狙った盗掘人を防ぐために、通電柵の設置も検討している。希少な種の保護のために局所的に柵を設置するのはこういった盗人にはかえって逆効果になる。なぜなら、希少な種がどこにあるのか教えているようなものだからだ。柵の設置にはそういった側面もあるが、今回の計画では、十分に広い範囲を囲うよう設置されるので、そういった恐れはほとんどないと考えている。


 全体としては、100km以上にわたる柵の設置が必要とされており、1万イギリスポンド(約150万円)の費用が試算されている。この計画は、Leslie Hill Succulent Karoo Trustを運営するWWF-South Africaと連携するWFAを通じて行うものである。MSGからは、会として運用している研究用資金から補填し、また寄付を呼びかけて、合計4000ポンドの支援を目標に活動することとする。



 ここ数年、コノフィツムの乱獲や、自生地破壊の話を頻繁に国内外の友人たちから聞き続けていた。なによりもまず、こうして貴重な生息地が保護される流れにあり、具体的な保護計画が進んでいると聞いて安心もした。多肉植物に限った話ではないが、絶妙な地理的特性と生物の進化/分化は密接に関わっている。その島にだけ、その丘にだけ、その崖にだけ..という、そういう生息をする種というものが存在するのである。その場所にだけ分化したような固有の、文字通りの希少種だ。テリーさんが手紙で言及しているコノフィツム バーンヒルディやスモレンスカデンセのような種はまさにそういった種類だ。ほんのわずかな面積に限られた個体数しか存在せず、ほんの数m脇を外れて歩いていても見逃してしまうかもしれないといわれるようなものだ。

摘発された盗掘のConophytum bachelorum……
信じられないよこれは。
原産地からは、全滅..相当なダメージではないか。

 6月、友人からこんな写真が送られてきた。これは本当に衝撃的な写真で、正直さっと血の気が引いてしまった。Conophytum bachelorumというのがどんな存在であるか知っていたら、絶句、意気消沈せずにはいられない、驚かずにはいられない写真だ。バケロラムの産地というのも、とても局所的で特殊なもので、ごく限られた丘にしか生息していない。また、数キロ内に隣接して生息するconfusumは、一見同種と思える形態を持ちながら、一方は春先に、一方は秋咲きであるという興味深い種分化が起きている。バケロラムは春咲き、コンフューサムは、秋咲きだ。cofuse(混乱)という種名もこうした興味深い発見の経緯から来ている。バケロラム/コンフューサムのこの産地は、一度は訪れてみたいコノフィツム聖地リストに加えられていた場所の筆頭でもあるほど、憧れの聖地であった。クリソクルサム/クリソラムなどと比較される、非常に興味深い産地だ。スティブン・ハマーによるあの有名な赤黒い単頭の写真が有名で、世界的に最も恋い焦がれられるコノフィツム界の特希少種。とはいえ、そんなストーリーや1000㎡ にも満たない点産地(point-endemism)の所在を、diggerらがそもそも知るはずもないだろう。”mentor(メンター)”となっている海外のトップコレクターたちが、その産地や、間違いなくお金になる希少な種の情報を与えているというのは想像に難くないし、事実だ。手をつけてはいけないもの、というのは確かにある。バケロラムや、ムイリアのような種は、まさにそういうものだ。来たるべき日、原産地を訪れた時、もはやそこにはないという悲劇は起きては欲しくない。そういう、成熟した分別がなくては、お金があって、絢爛なコレクションが並んでいようと、貧弱ではどうしようもない。悲しすぎるニュースだった。

美しい石英丘に花咲くバケロラム
Forever Habitat Habitat Forever

とにかく、この一枚の写真は山積みの象牙を見るかのような、肝の冷える一件だった。そんな折に届いたテリーさんからのメッセージ。共感と嘆きから始まるには違いないが、嘆息の一息で動じるほど物事は小さくないだろう。今やせっかく、こういうwebの場を作ったのだから、何かできることはないだろうか。

昨年ヨーロッパでお会いした時の
Terryさん夫妻、素敵ですね。The legend!

テリーさんと話した時に感じる穏やかな人柄、植物に対する早朝の朝陽のような静かな情熱を敬愛しているし、そういうものが育まれたカルチャー自体を羨ましく思う。彼と植物の間には何も存在していない。比較によって、価格によって、相対的にしかモノの価値を決めることしかできないコレクターとは対極的な人々だ。彼らはSNSのメッセンジャー越しに送られてくる写真に、diggerの収穫にほくそえむことしかできない。

具体的な実践。目の前のこの保護プロジェクトに寄付支援活動を支持するところから始めよう。
以前からどういった形で、この活動を支援できるか考え、ひいては、我々の活動を原産地にどう還元してゆくことができるのか、折に触れて考えてきた。

The Succulentist Habitat Research Fund
LIVE FOREVER WITH HABITAT
を設立することにしました。

Habitat Seriesの第一弾としてオファーしたSurface Sandはたくさんの方にご愛顧いただき、その世界観を楽しんでいただいています。今ここから、遠いHabitat(原産地)に思い馳せることから始まるのがHabitat Seriesというもの。原産地に思いを馳せ、想像するHabitat Seriesという園芸スタイルから生まれた収益を、産地保護の活動に用いるというのは、ごくエシックな発想であり、Habitat Seriesという園芸スタイルが、産地の保護にも通じていくのならば、そこには<自然と園芸>の有機的な円環が生じるようになる。Habitat Seriesというアイデアが、Habitatそれ自体を守ることに繋がってゆく。喜ばしいサイクル。私たちの園芸活動が、Habitatを破壊するのではなく、それ自体を守ることに繋がる。そんな⇄システムを構築していけたら。お手元のSurface Sandが、遠い原産地の永続に繋がっている、というような。
今回、まずはSurface Sandの収益から、Karrasberge ProjectへのMSGの寄付目標金額の1割にあたる5万円を寄付することにしました。

<LIVE FOREVER WITH HABITAT>は、The Succulentistの多肉植物自生地研究用ファンドの呼称であるとともに、宣言であります。今後も様々なオファーをこのサイトでしていきますが、The Succulentistとして、その部分収益を研究用ファンド<LIVE FOREVER WITH HABITAT>として貯蓄していき、折に触れて様々な産地保護のプロジェクトを支援していけたら、そしていずれは自らの原産地保護のアイデア踏まえて、活動の一端としていけたらと思います。海外のコンベンションやミーティングに遊びに行くと、友人たちをリンクして日本には原産地を紹介し、様々な情報をシェアする存在が貧しく、クラブの設立や、紙媒体でのジャーナルの発行など、初めていければと思っています。思い馳せるべき、原産地を繋いでいく。まずはここに小さな宣言を。








この保護プロジェクトは、最終的にWWFを通じて行われるので、WWFのページにもプロジェクトの詳細があります。長くなるので、詳しく知りたい方は以下..


▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

2020.06.15更新
-FOUR NEW NATURE RESERVES DECLARED-
(-新しく登録された4つの保護区域-)

Springbok東部のブッシュマンランドを訪れると、広大な平原のなかに、ぽつんぽつんとそそりたつ丘が見られる。これらは、Inselbergと呼ばれるもので、部分的な硬い地層が周りの侵食で丘として現れたものである。じつは、この丘の一つ一つが、希少な多肉植物の宝庫になっているのである。そして、そういったことは、希少な植物を狙う密猟者も知っているのだ。Leslie Hill Succulent Karoo Trust (LHSKT) が、こうした石英丘のひとつひとつをかねてより最重要保護区域として位置付けているのも、そういった理由からである。南ア西部地域は、UNESCOによっても、”世界で最も多様性の豊かな地域”の一つとして評価されている。しかしながら、農場主によって自営的に保護はされていたものの、2020年3月まで、北ケープのBushmanlandのInselberg群は、法的には保護されていない状態だった。盗掘や放牧などによる産地破壊が進んだことで、今回新たに指定されることになった4つの新しい保護区域となるのが、
・Areb
・Karas
・Marietjie van Niekerk
・Smorgenskadu
これらを合わせて、“KARRASBERGE PROJECT AREA”とすることにした。この総5700ヘクタールに及ぶ範囲の土地は、これまで保護されてこなかったBushmanland Inselberg Shrubland、Aggeneys Gravel VygieveldそしてBushmanland Arid Grasslandを含んでおり、国際的な保護区域として指定されたわけである。

この保護区域指定の成果は、WWFSAを通じてLHSKTにファンドされWFAの成果である。landオーナーらとNorthern Cape Department of Environment and Nature Conservation (DENC)の協力も。土地主とともに監視している。

WFA, DENC, WWFは、牧場主の献身的保護意識は、南アの貴重な資産を守るものであり、褒めたたえ、これらの保護区域は、地球温暖化の抑止にも繋がる。鉱山採掘露天掘りのもたらす自然破壊や、盗掘による産地破壊などに、今回の保護は足止めをする転機になると考えられている。北ケープの鉱山開発は年々、加速しており、Karrasbergeのような貴重な生態系を資源採掘の露天掘りの破壊から守ることは、多様性の保護、生態系の機能を維持するためにも最も優先されるべきことである。

牧場主は、やはりその所有する土地を保護するにあたって、重要な役割を担っている。現在の景観と地域の生活活動を維持しつつ、今回監督する地域を所有する牧場主ファミリーは、過去のひどい干ばつに際しても、積極的に維持に取り組んで来た。多様性管理のethosである。かれらはそれら地域の管理権限を有し、その管理に資産的法的にも運用を任せられている。

Northern Cape Succulent Karooの保護活動をリードしてくれる4人の素晴らしき牧場主たちに、謝辞をのべさせていただきます。
・Frank and Marianna Agenbag (Areb Nature Reserve),
・Rina van Niekerk, Piet and Mariska van Niekerk (Karas Nature Reserve),

・Weich and Marietjie van Niekerk (Marietjie van Niekerk Nature Reserve)
・Jan and Ronel Kennedy (Smorgenskadu Nature Reserve).