Beginning of the story -Haemanthus nortieri-


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a; 真紅の開花   b; 黒い杓子状の葉   c; ピンク色の果実

2021年元日、7時過ぎ、初日の出を拝みに2階の庭へ出た。ビニールの結露は、凍って白く、水を張ったトレーは鉢ごと凍り付いていた。振り返ってみれば、去年は恐れていた台風が一度もなく、それも暖かな冬を過ごしていた。ニュースを見れば、年末年始には強い寒波がやってくるとのこと、帰り急いで寒さに弱い植物を取り込んだのだった。植物を一つひとつ選んでは、取り込みながら見ていくと、やはり夏型の植物は体躯は堅くしっかりして、格好良い。冬型の繊細な色調やデザインとは、また違った魅力だとつくづく思う。柔らかく、透明で、ねじれたりうねったり、風変わりな姿のものが多い。

冬越しの準備の済んだ温室には、真っ盛りの冬型植物が並んでいる。ある種の球根、トラキアンドラやオルニソガラム、ナマクランドに特有の、ねじれたり波うった葉を持つ種類は、屋外に出したままだ。寒い風雨に晒して酷に思うかもしれないが、こうしていよいよ草姿が充実する。まさに原産地のような。無加温でも、ガラス一枚あるのとないのでは、一段と、草姿、締まりがちがってくるのだ。ゲチリスや、バルブ類は、とりわけ奇妙なものが多い。unusual, bizzare, unique..、珍奇というやつだ。珍奇、という言葉は、ここ数年多肉植物を形容する言葉としてよく使われている。”珍”しく”奇”妙な植物。なるほど姿を見て、奇妙だ、というのはわかる。見慣れないしそれ、自体、まさに奇妙さを孕んでフツウからは程遠い。一方で、珍しいという価値観は地域や時代でうつろう。もしありふれたとしても、まだ確かに美しいと思えるのか? 一度は考えてみてもいい、普遍的な価値観ではないか? とはいえ、それでもときには珍しい、という言葉を確かに使いたい時がある。Angel de la Guardia島のジョンストン玉(Ferocactus johnstonianus) や、ナミビアHuns MountainのTylecodon singlarisのような。長いロカリティーデータを札に書くまでもなく、その植物であれば、もうそこにしかない。そこの島だけにしか、山だけにしか、谷だけにしか、その崖にしかない。今回紹介する、ハエマンサス ノルティエリもそんな植物の一つだ。

Angel de la Guardia Island
Huns mountain, Namibia


Haemanthus nortieriハエマンサス ノルティエリは、ClanwilliamsとVanrhynsdorp の中間地点にある Nardouwskloof にだけ分布が知られている植物である。 -kloofとは窪地のことで、Nardouw にある窪地状の土地ということである。 ハエマンサスには、たった2種類だけ一枚葉の種が知られていて、その一つがここに紹介するノルティエリである(もう一つは、H. unifoliatus。有毛の種)。球根やハエマンサスにそれほどの興味がない人でも、ノルティエリは別、という人も多いはず。それぐらい魅力的な植物だ。対の葉を出さず、地面に 直立した一枚の葉を生やす。その形はよく paddle(しゃもじ) に例えられる。葉色を頭の中で思い出すと、緑というよりも 黒、という感じである。赤みを帯びた緑、つまり濃紫色というのが正確かもしれない。ゲチリスなどと同じように、休眠中の水やりは厳禁で、もし下手をしたら、夏を過ぎいつまで待っても葉を拝むことはできない。二度と。

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d; 葉が出る前に花茎が伸びてくる。赤い縁取りの葉がのぞいている。

ノルティエリは、その他のゲチリスのようなごく人気種に並ぶ、いやそれ以上に希少で美しく、奇妙で珍しい植物だ。原産地球につきまとう罪悪感を、いや難しい話は今はやめておこう。そう、増やす喜びは、園芸の他には代え難い楽しみだろう。モノとは違う点、大きくしたり、増やしたりする楽しみだ。ノルティエリは、原産地球が導入されること自体も稀で、簡単に流通しないが、この植物がいよいよ珍しいのには訳がある。

訳というのは、その実生育成の難しさにある。まず、毎年咲くものではなく、バルブが十二分に充実しなければ、開花することはないし、一度開花したからといって、それから毎年咲くというわけでもない。そんな充実した株を複数株入手すること自体がまず難しいが、さらに複数手に入れたとしても、開花が揃う、ということはいよいよだ。
日本でも、ごく少数の栽培家が実生を経験しているが、その一人、三重の古市さん(Succulent Box Ruchia)は、7,8年前についに開花が揃ったよ!という話をしたものだった。以前も何度か咲くことはあったものの、やはり2個体以上揃って咲くことがないということだった。実際、それ以来採種には成功していないのだから。運も必要なようだ。

さて、古市さんの実生が、7,8年経ってどんな風だろうか。とっくに成球だろうか。いや、これがノルティエリの繁殖育成のもう一つ壁なのだ。充実した成球であれば、葉幅10cmを超えるような大きな種類なのだが、7,8才の実生苗は、未だに葉幅2cmにも満たないのだ。親株が立派なしゃもじなら、これらの実生苗は、茶杓といったところだろうか。
自然界でも、それほど成長速度に差があるとは思えないし、むしろ日本での栽培の方が早いだろう。ただ、成長は大変に遅い。5年10年経っても茶杓のような太さにしか育たない。この遅さを楽しまないでは、どうする。遅いものは遅いもの、それは自然の姿だ。自然界ではだれが急ぐでもなし、自然とはそういうものなのだろう。なんとも雄大な時間の流れだ。

神奈川の土志田さんのインタビューをKaktusyで書いた時に話したが、どうやら自家受粉でも種子をとることは可能なようだ。種子の充実という意味では、やはり別個体間での交配がベストだ。

ルビーよりも価値ある種子

さて、今回ノルティエリについて書こうと思い立ったのは、うちにも素晴らしい幸運が舞い降りたからだった。親株を手に入れてから8年、今年初めて見事な開花を見ることができたのだった。クリムゾンカラーの太い花茎が、バルブから伸びてくる。ノルティエリは、開花する場合、成長期の始まりとともに葉が出る前に花茎を伸ばす。だから、何もないところから、真っ赤なものが突き出してくる様は、甚だ魅力的だ。真紅の姿。さて、今年はそれだけではなくて、大事にしていた3株の親株のうち、2株が、同時に!開花したのだ。これは、この秋冬の大きな喜びだった。毎日、太めの筆で、さらさらと両方の開花をなで、行き来した。ひとつの花茎に、50個以上の花が集合しているから、両方で結実したならば、かなりの量の実が取れそうだ。花自体は、地味なもので、雄しべがよく目立ち、全体としては、それこそまさに太い筆のようだ。果実が膨らみ始めた様子をみて、交配がそつなく済んだことがわかりほっとした。成熟に従い、太い花茎が棒倒しのように倒れ始め、薄ピンク色の果実がぽろぽろと落ちるのだった。さて、収穫の時だ。

落ちた果実を集め、完熟して、落ちた実はすでにぐじゅぐじゅで、押すと中にある2,3個の種子が出てくる。果肉はローションのようにトロトロで、細いへその緒(維管束)が伸びている。取り出して水で洗うと、糸状の維管束が絡み合って筋の子のようだ。一つひとつ、綺麗に取り出し乾かした。ノルティエリの種子は、濃いベリー色で、1cm弱の卵のようだ。

トロトロの果肉


ハエマンサスは、ヒガンバナよろしく毒草なので、動物に食べられて拡散するということはないのだろう。自生地の様子をみても、一株づつ散らばって生えるのはなく、ひとかたまりに群生している様子を見ることができる。親株の周りに、花茎の棒倒しで30cmほど近くにまとまってこぼれるだけだろう。

ハエマンサスの種子は、みずみずしく、転がしておけば、水をあたえなくても、ヘソから勝手に発芽してくる(だから、ハエマンサスや、ゲチリスの種子を輸入するときは少しトリッキーだ。) 

この生えてくる様が、また実に面白い経験です。この様は、なかなか経験できるものではないし、次はいつになるかもわからない。本種は、新鮮でなくてはならないから、輸入種子の導入しようにも簡単ではないのです。

さて、ここまでお楽しみいただきまして、この機会にぜひ、少量ですが、新鮮な種子のSpecial offerです。

1粒2000円15粒のlimitedです。
お一人 1粒 です。

発芽してきた種子